第1回 東京国際スポーツメディスンイノベーションフォーラム

現状とイノベーション

PRESENT & FUTURE INNOVATION

アスリートサポートの現状とイノベーション “Beyond 2020”

アスリートサポートの現状と将来に向けた展望、イノベーションを、各分野の日本における指導的立場にある3名の先生方
・安全対策の立場から、Sports Safety Japan 代表の佐保豊先生
・栄養管理の立場から、Office LAC-U 代表の石川三知先生
・チームサポートの立場から、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の広瀬統一先生
にそれぞれご講演いただきます。

シンポジスト

「スポーツ現場における安全対策」

佐保 豊(Sports Safety Japan 代表)

佐保 豊(Sports Safety Japan 代表)

スポーツ現場における安全対策

昨今、スポーツ現場の安全性が以前に比べ重要視されてきているなか、「安全」という定義が明確になされていないのが現状である。スポーツにおける死亡事故の3大原因と言われるのが、心臓疾患による突然死、頭頚部外傷、熱中症。これらを含む緊急事態がスポーツ現場では常に起こるという想定の元、「人」「物」「体制」の3つの柱を軸に体制を整えなければならない。事故が起きてからの対応の質も大切だが、最悪の事故を想定した事前の準備がより重要であり、競技の種類やレベルに関わらず全てのスポーツ現場で安全管理体制を構築することが求められる。

シンポジスト

「スポーツ現場における栄養管理」

石川 三知(Office LAC-U 代表)

石川 三知(Office LAC-U 代表)

スポーツ現場における栄養管理

競技スポーツで食や栄養の重要性が注目され始めているが、スポーツ医学・フィジカルトレーニング・ケアといった分野に比較し、スポーツ栄養の研究や実践の日は浅いと言える。 栄養摂取=食事は日常的に行われる(スポーツをしない人でも必ず行う)ため、様々な慣習や情報も多く、また、昨今、各栄養素についての研究も盛んなことから、何を取捨選択し、結果に繋がるサポートを行うかが必須と考える。 そのためには、日常的な食事と、運動時に必要となる栄養摂取の区分をしっかりと理解しすること。食事(栄養摂取)のみを注視するのではなく、競技者のパフォーマンスを上げるための要素「トレーニング」「睡眠(ケア)」「食事」の一部であることの認識、他の2要素のクオリティを更に高める工夫の探求が必要である。 そして、競技者自身が自発的に食事や栄養摂取を継続したくなるような、アプローチが求められる。

シンポジスト

「スポーツ現場におけるチームサポート」

広瀬 統一(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

広瀬 統一(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

―スポーツ現場で求められる能力- これからのアスレティックトレーナーに求められるハイ・コンセプトとハイ・タッチ

アスレティックトレーナーの役割は、アスリートの安全・健康管理やパフォーマンス維持・向上の支援である。安全や健康を脅かす要因や、パフォーマンス構造は多様であるため、多角的なアプローチが必須であり、時には他業種との連携も必要となる。これらを達成するためにはハイ・コンセプト、すなわち一見関連のないように見えるものからパターンを見出したり、それらを関連付けて新しいものを生み出す能力が必要とされる。また外傷・障害予防プログラムの効果を左右する要因はコンプライアンスが高いことからも示されるように、各種アプローチの成否はアスリートの正しく、継続的な取り組みに依存する。さらにアスリートの日常生活における細かな変化にも目を配り、阻害要因や促進要因についても知る必要がある。そのためには日常的な些細なことに意味を見出すことや、論理だけでなく相手が共感するような働きかけができる、ハイ・タッチが必要とされる。

スポーツ医学の現状とイノベーション “Beyond 2020”

スポーツ医学の現状と将来に向けた展望、イノベーションを、各分野における権威の先生方
・総論を大阪大学医学部健康スポーツ科学講座教授の中田研先生
・足関節を早稲田大学スポーツ科学学術院教授の熊井司先生
・肩・肘関節を船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之先生
・脊椎を早稲田大学スポーツ科学学術院教授の金岡恒治先生
・膝関節を大阪大学大学院医学系研究科整形外科講師の前達雄先生
にそれぞれご講演いただきます。

シンポジスト

「総論」

中田 研(大阪大学医学部健康スポーツ科学講座 教授)

中田 研(大阪大学医学部健康スポーツ科学講座 教授)

総論

スポーツ医学の目標には,スポーツ外傷・障害・疾病の診断と治療でリハビリテーションやトレーニングの方法とプランを示して確実に安全に高いレベルにできるだけ早期に復帰すること (RTP:Return-to-Play) や,スポーツ外傷・障害・疾病の予防(IP:Injury Prevention)がある.さらに,競技やスポーツ活動でのパフォーマンス向上(HP:High Performance)や,身体活動の維持・向上から生涯にわたる健康(HC:Health Care)が目標となる. 2020東京オリパラとその後の日本のスポーツ医科学の発展にむけて,「SRIP;Sports Research Innovation Project」がスポーツ庁,大学,競技団体,企業が連携して,医学,情報学,工学,栄養学のオープンイノベーションで新規デバイスやビッグデータ解析,AIを用いた研究が進められており,身体全体としてパフォーマンス評価からスポーツ外傷障害の予測,予防,競技力向上,健康寿命の延伸に向けて,大きな進歩が期待される.

シンポジスト

「足関節」

熊井 司(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

熊井 司(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

スポーツ足の外科診療における新たな展望 -足固有の機能特性を考えたアプローチ-

足部は歩く、走る、跳ぶといった基本的な運動の最終作用点となることから、アスリートの下肢出力が大きくなるにつれて、より過大な地面反力と戦わなければならない。そのため足部には多種多様なoveruse/overload障害が発生し、その中でも腱症や腱・靭帯付着部症(アキレス腱症、足底腱膜症など)、疲労骨折、前方・後方インピンジメント症候群、種子骨障害といったアスリートにとってはcareer-endingともなる難治性疾患が多くみられる。
足の外科においても鏡視下手術を中心とする低侵襲治療が急速に普及しているが、各障害の発生する病態を理解しその危険因子を一つずつ回避・軽減していくことと、組織修復のメカニズムをしっかりと理解することが、アスリートにとって最も根本的な治療・再発予防へとつながることは言うまでもない。本講演では、スポーツ足の外科診療における新たな展開として1)足関節外側靭帯損傷治療、2)スポーツに必要な足固有の機能特性 の2点に注目して“再考”することで今後のイノベーションについて語りたい。

シンポジスト

「肩・肘関節」

菅谷 啓之(船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター長)

菅谷 啓之(船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター長)

Treatment Rationale for Shoulder & Elbow Injuries in Throwers

Throwing injuries are very common among throwers and variety of pathologies have been described including labrum lesions, PASTA lesion, Bennett lesion, and UCL injuries. However, although these pathologies can be a source of shoulder and elbow pain, it is also a consequence of repetitive throwing with deteriorated mechanics based on dysfunction of scapulothoracic articulation along with trunk and lower extremities. Therefore, regardless of pathologies, correction of dysfunction as well as throwing mechanics by physical therapist and athletic trainer should be the first choice of treatment, and this conservative treatment is effective to eliminate or reduce symptoms in most throwers. Surgical intervention is considered only when throwers who have evident anatomical problems remain symptomatic even after proper conservative treatment with a certain amount of period. To date, however, we have not yet reached to consensus regarding pathomechanics and treatment rationale among physicians (surgeons) in this difficult topic. Therefore, conservative approach and surgical indication are a bit different among surgeons and countries. Towards 2020, we need pile up evidence based on basic and clinical researches and develop consensus among therapists and surgeons.

シンポジスト

「脊椎」

金岡 恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

金岡 恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

スポーツ医学の現状とイノベーション“Beyond2020” 腰椎

スポーツ医学はアスリートのケガや故障を、的確な診断のもとに最善の治療を行い、早期に競技復帰させることを目的に発展し、MRIや超音波画像を始めとした最新の画像診断を応用し、内視鏡を駆使した最小侵襲の手術方法も普及し当初の目的を果たしている。また近年ではスポーツ科学研究の進歩によって、スポーツ外傷・障害を予防するために備えるべき身体機能が明らかにされつつあり、これらの知見を総合することでより効率的な障害予防が期待される。この身体機能を高めるアプローチは同時に競技パフォーマンスを高めることにも繋がり、本邦の国際競技力向上に寄与し、さらには同様の身体構造を有する中高齢者の健康寿命延伸への寄与も期待される。本講演では、アスリートの腰部障害の予防対策を実例に挙げスポーツ医学がTokyo2020の先に見据えておくべき展望について解説する。

シンポジスト

「膝関節」

前 達雄(大阪大学大学院医学系研究科整形外科 講師)

前 達雄(大阪大学大学院医学系研究科整形外科 講師)

膝関節鏡手術の未来

膝前十字靭帯損傷は、膝関節におけるスポーツ外傷の中で最も注目される1つである。靭帯損傷に対しては外科治療が一般的であり、解剖学的研究や手術機器の改良により、正確な骨孔作製が可能となり、生体力学的及び形態学的にかなり正常靭帯に近い再建ができるようになった。そのおかげで、靭帯損傷により、スポーツの継続が困難となった選手も、手術にて元のスポーツへ高い頻度で復帰が可能である。しかし、依然として再建靭帯の再断裂や術後の骨孔拡大、スポーツ復帰までに6ヶ月以上の時間を要すること、自家腱を用いるため採取部の不快感や筋力低下などの問題がある。再断裂に対してはリハにおける再断裂予防プログラムの改善、骨孔拡大は移植腱として骨付き膝蓋腱の使用、自家腱採取については同種腱の使用や将来的には人工材料の開発などの対策が考えられる。一方、スポーツ復帰に時間を要する点においては改善策が現時点ではなく、今後の生物学的なbreak throughを期待したい。